日本臨床皮膚科医会
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皮膚の病気

さまざまなひふの病気について、症状などをわかりやすく解説しています

日本紅斑熱

図1

図2

図3

 日本紅斑熱は、リケッチア(Rickettsia Japonica)と呼ばれる病原体による感染症です。1984年、徳島県で初めて報告され、それ以降、発症例は増加傾向にあります。マダニを媒介する人と動物に共通する感染症で、マダニに咬まれることで感染します。マダニは、3から8mm程度の大きさの節足動物で人・動物の血液をエサとしています。草叢に生息し、植物の先端で待ち伏せし、吸血源の動物が通りかかると乗り移り吸血します。吸血により、マダニの体内にいたリケッチアが人の体内に侵入し、2から8日間の潜伏期間を経て発症します。マダニが活発な3から11月に多い傾向が見られます。山林部でマダニに咬まれる事が多いとされていましたが、最近では犬などのペットに付着したマダニに咬まれて発症した症例も報告されています。

 発症時の症状は、体温40°前後の高熱、痂皮を伴うマダニの刺し口(図1)、全身の皮疹(主として紅斑(赤い斑点)と点状紫斑(点状出血))で、三主徴と呼ばれています。紅斑は、体に比べ顔面、手掌、足底などの四肢末端部に強く出る傾向があります(図2,3)。皮疹に掻痒感はありません。その他の症状としては、頭痛、悪寒戦慄、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛、結膜充血、下痢、嘔吐などがあります。検査は間隔を開けた2回の血液検査を施行し、日本紅斑熱の抗体価が上昇していることを確認します(ペア血清)。また、刺し口の痂皮が残っていれば、痂皮を利用したPCR検査で、直接原因リケッチアのDNAを確認し迅速に診断できます。

 治療は、一般的に使用されている抗菌薬であるβラクタム系薬剤は全く無効で、テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリン200mg/日の点滴または内服)が有効です。通常は同剤を7から14日間投与する必要があります。重症例には、テトラサイクリン系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬併用の有効性が報告されています。大切なのは、発熱、臨床症状から日本紅斑熱を疑った場合、確定診断がつく前にテトラサイクリン系抗菌薬の投与を開始することです。日本紅斑熱は、適切な治療がなされると予後良好ですが、治療が遅れた場合、血球貪食症候群、播種性血管内凝固症候群、急性呼吸促拍症候群といった重篤な病態を合併するからです。治療の遅れによる、死亡例報告もあります。発熱と皮疹があり、βラクタム系抗菌薬不応の場合、草叢・山林への侵入歴やマダニ咬傷が確認できなくても、日本紅斑熱を鑑別疾患に上げる必要があるかと思います。

 従来、日本紅斑熱は西日本を中心に関東以西の比較的温暖な太平洋沿岸に発症例が見られておりました。しかし近年では、地球温暖化の影響からか、発症地域が東日本に広がり、発症数も増加しています。日本紅斑熱の予防方法ですが、なによりマダニに咬まれない事が重要です。草叢・山林などマダニの生息する場所に入るときには入る時には、長袖・長ズボン・長靴・手袋・首にタオルを巻くなど、肌の露出をできるだけ少なくすることが大切です。虫除けスプレーも一定の忌避効果が得られます。ペットなどの身近な動物にもマダニの付着が無いか気をつけましょう。野外活動後は入浴し、マダニが付着していないか注意深くチェックします。もし、マダニに咬まれてしまったら、その後1から2週間は、発熱・皮疹・吐き気・下痢などに注意しつつ、症状が出るようなら医療機関受診が必要です。

(徳島県支部 飛田 泰斗史)


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